最高裁判所第一小法廷 昭和40年(オ)580号 判決 1966年11月17日
上告人(被告・被控訴人) 株式会社鶴田屋製菓所
右訴訟代理人弁護士 大久保弘武
被上告人(原告・控訴人) 矢野銀造
右訴訟代理人弁護士 原陽三郎
主文
原判決中、金六六五、八六〇円に対する昭和三四年一二月六日から昭和三五年一〇月八日までの年六分の割合による遅延損害金の支払を命じた部分を破棄し、右部分に関する被上告人の請求を棄却する。
本件その余の部分に対する上告を棄却する。
訴訟の総費用はこれを二〇分し、その一を被上告人その余を上告人の各負担とする。
理由
上告代理人大久保弘武の上告理由第一、二点について。
本件約束手形が偽造されたものであるとの上告人の抗弁が認められない旨の原審の認定は、原判決の挙示する証拠に照らして首肯するに足り原判決には所論違法は存しない。論旨は、ひっきょう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実認定を非難するに帰し、採用できない。
しかし、職権をもって調査するに裁判上手形金の支払を請求する場合は、手形の呈示を伴わないでも、訴状の送達により債務者を遅滞に付する効果を生ずるけれども(昭和二八年(オ)第七五〇号同三〇年二月一日最高裁判所第三小法廷判決、民集九巻二号一三九頁参照)、裁判外で手形金を請求する場合は、手形を呈示しなければ手形債務者を遅滞に付する効果を発生しえないと解するを相当とする。蓋し、商法五一七条、手形法三八条、七七条の法意に照らすも、手形は流通証券であるから、その取引の迅速と確実とを確保するため、一般的にはその支払の請求をするには手形の呈示を必要とし、唯裁判上の請求の場合は手形の呈示なくとも訴訟手続上手形の呈示と同様な確実性がえられると解すべきであるからである。
本件について原審の確定した事実によれば、被上告人は本件約束手形をその支払日に呈示したことは認められないが、昭和三四年一一月二八日書留内容証明郵便を以って上告人に対し同年一二月五日までに本件手形金を支払うことを催告したというのであるが、右請求について本件約束手形が上告人に呈示されたことの認められない本件においては、右催告により、上告人を本件約束手形金の支払につき遅滞に付することはできないのであって、結局、記録上昭和三五年一〇月八日されたこと明らかな本訴状送達によってはじめて上告人を遅滞に陥らしめたものと解すべきである。
しかるに、原判決が本件遅延損害金の支払起算日を右催告による支払日の翌日(原判決の「催告の翌日」とあるは上記の趣旨と解せらる。)である昭和三四年一二月六日と判示したのは、前記説示に照らして違法たるを免れない。従って、原判決中、本件手形金六六五、八六〇円に対する昭和三四年一二月六日から同三五年一〇月八日に至るまでの年六分の割合による遅延損害金の支払を命じた部分を破棄し、右部分に関する被上告人の請求を棄却すべきものである。<以下省略>
(裁判長裁判官 長部謹吾 裁判官 入江俊郎 裁判官 松田二郎 裁判官 岩田誠)
上告代理人大久保弘武の上告理由<省略>